森の木プロローグ

森と水


森と水は切り離して考えることはできない。

水は水蒸気として海面や大地から上昇し、やがて雨となって降ってくる。

雨は森林に降ると大地にしみこんで、ゆっくりと川や地下水へ流れ出し、海へ下っていく。

この循環が非常に大事なのである。

森林に降った雨は、根や苔や腐葉土などによって蓄えられる。

その中の一部は、植物によって吸い上げられ、蒸散作用によって葉から水蒸気となって上空へ向かうが、

その他は大地の下方へと流れていく。

森が豊かだとこの流れはゆっくりとしており、川の水量は安定して、長期間豊かに流れ続ける。

一方、耕された畑やコンクリートに覆われた都会に降った雨は、

短期間で川に急流となって流れ込み、流域に災害を起こし、

また雨がやむと、短期間で川はもとの水量の少ない状態に戻る。

 昨今、世界中で洪水が多発しているニュースを聞くが、

大きな被害となっているのは、森林が失われたことが、そのもっとも大きな原因である。

森林から流れ出る水は、自然の濾過装置が働き清く澄んでおり、

水の中には、岩から溶けだしたミネラルや鉄分などが含まれ、植物の養分となり、

プランクトンを育て、川や海の生き物を豊かに育てる。

日本の水田での稲作は、その良い例である。

エジプトのナイル川では、上流に大きなダムができ、洪水がなくなったが、

洪水によって、上流から運ばれていた肥沃な土が運ばれなくなり、

現在では、化学肥料を使わなければ、作物はとれなくなっているそうだ。

日本の水田は、毎年続けて同じ作物である稲を栽培しても、

連作障害が出ないように、ミネラルや養分が豊富なのである。

 日本は数千年にわたり、稲を栽培しながら共同作業を行うことで、

「村」というシステムを維持してきた。

理想的なボランティア社会だったのである。

米を中心とした文化から、金を中心とした文化に移り変わり、

世の中は一見豊かになったように思われるが、

昔のように村全体でお祭りを楽しんだり、子供達が自然の野山で駆け回ったり、

小川で魚を捕らえて遊んだりすることができなくなった。

人間の生活が森や水から遠くなりつつある。

遠くなっていく分、からだも本来の健康を失っている。

森と水の豊かな自然を取り戻すことが、本来の豊かな生活を取り戻すことなのである。

人間の老いの理想の姿は、よい老人ホームに入ることにあるのではなく、

自然豊かな土地で子供達と共にあることではないだろうか。
〜より